残念な時帰呼が綴る 残念な感じのON>OFF生活


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夜の闇を漆黒の外套のように纏い 衝動は奔り出す。

抑えきれない想いと 消え去ることのない恨みと 忘れ去った記憶に突き動かされて。

たとえ、ひとならざるモノ、移ろわざるモノ、永遠に死せるモノと成り果てても。

見上げれば丸い蒼月。付き従うは、哀れなる骸を見下ろす輝ける星々。 微かに聞こえるは闇の囁く聲。

「さぁ、唄ってごらん」

其れは 確かに そう囁いた。




聲が聴こえる…。
子供たちの唄う聲が…。

ラ・ラ ラ ラ・ララ ラララ♪

ラ・ラ ラ ラ・ララ ラララ♪

今宵は ハロウィンナイト。
病に倒れ 或は 不慮の死を遂げ 地に伏し腐り果てた骸も起き上がり 建ち並ぶ家々の陰の中を さ迷い歩く逢魔の夜。

「クスクス…、ソンナニナッテモ マダ覚ェテルノ?」

何処か聞き覚えのある ぞわりと背筋を逆撫でる悪寒をともなう少女の聲が 耳元で そっと囁いた。


《陰を纏うモノ》は、不意に揺り起こされたように眼を見開く。

先程から聴こえていた 楽しげに唄う子供たちの聲が 風にのり 遠くに 近くに 微かに聴こえる。

《陰を纏うモノ》
は 首をかしげ、じっと耳を澄ます。

(あぁ、あの聲について行けば…)

何処へ…?

思い出せない。
けれど、その渇望だけは 今も 冷えきった胸を焼き焦がす。

ズキリ…と痛む右膝を忌々しく思いながら 彼は天を仰ぎ けして癒えることのない疼痛を堪える。

皮肉なものだ。 このような身の上になろうとも この傷みは逃れることを赦さないとは。

永遠に夜を さ迷うモノ。二度と暁を迎えられぬモノ。

それが 今の私。

だが、その私という存在が 何者であったのかを どうしても思い出せない。

私の名前…。

シェイマス だか ウィリアムだか…。

それとも……、

ズキリッ…と 膝が痛む。



あまりの痛みに顔を顰め 《陰を纏うモノ》 は 踞りそうになる。 けれど、こうしている間にも あの子供たちの聲が 遠ざかってゆく。

歯を食い縛り 無理矢理 歩を進める。
こんな痛みに構ってなどいられはしない。

遠く、遠く 子供たちの聲が聞こえる。



「ねぇ、あのお月様…」

先程とは違う少女の聲が 耳許で囁いた。

「ねぇ、お願い!」

《陰を纏うモノ》は、その聲に頷くと 虚空に輝く真ん丸な月に 手を伸ばす。

(けして、届くことなどないと知りながら)

「ずっと 一緒にいようね」

先程の聲が、声が、こえが… コェ ガ…

何度も 何度も繰り返される悲劇。
いや、天空に座する奴らからすれば 喜劇なのだろうか。

どちらにせよ、死せる運命にある憐れなるモノには 窺い知ることも 抗うことも許されぬ円環の理の内にある舞台劇にしかすぎないのだろう。

不意に ズシリと重さを増した両の手を 見下ろすと そこに握られていたのは 月光を鈍く反射する黒き双剣。

その切先からは 鮮紅の雫が 止めどなく滴り落ちている。



ラ・ラ ラ ラ・ララ ラララ♪

ラ・ラ ラ ラ・ララ ラララ♪

聲が聴こえる…。
子供たちの唄う聲が…。


遠く、近く、無邪気な子供たちの聲が 微かに風に乗って。


《陰を纏うモノ》は、痛む膝が軋むように ぎこちなく一歩前へと踏み出すと、歪んだ微笑を浮かべて そっと囁いた。

「サァ、復讐劇ヲ ハジメヨゥ…」


一陣の夜風が吹き抜け 子供たちの聲を掻き消した。


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おはようございます(^0_0^)♪

久方ぶりに 創作SSを 一本。

これは、ある友人の描いたイラストを元にしたお話です。

う~ん、ちょっと纏まりがないお話になってしまったけれど その友人の描いたイラストのイメージが このSSを読んだひとの頭のなかに浮かび上がったなら、成功かもしれません。

では、以下へ お進みくださいませ。

なお、文中のイメージなどは、全て 時帰呼の勝手な想像力の産物ですので、イラストを描いた友人の本来のイメージ及びコンセプトとは異なることを ご承知くださると幸いです。





【止まった時間】



森に 分け入ったのには 訳がある…。


いつものように、愛用のカメラ(時代遅れの銀塩カメラ)を持って、私は 出掛けた。

噂は、ずいぶん前から聞いていた。 森の奥の そのまた奥、今では 誰も踏み込むことのなくなった 苔むし 蔦の絡まる大木が生い茂り 陽の光も届かないほどの深い森。其処に眠る忘れ去られた文明の名残り。

其れを、どうにかして この目で見て、もうひとつの私の目にも焼き付けておきたいと思ったんだ。

フィルムは 沢山持った。 けれど、こんなに 探しだすのに苦労するとは 思わなかった。

だいたいからして、スカートを履いてきた時点で 私は、今回の撮影旅行を嘗めていたと 自分自身を呪わずにはいられなかった。しかも、お気に入りのワンピース。裾は 森の下生えに引っかけまくり ビリビリに破け 不意に降ってきた雨に塗れ泥まみれ…。いい加減、自分の愚かさに げんなりして 諦め 引き返そうかと思った時に 目の前に 其れを見つけた。

想像もつかない時間が流れたというのに 森の中に続く鉄路の跡、廻りに生い茂る木々が 何者かの通る事を邪魔するのを遠慮したかのように 其処だけは 一本も生えていなくて 細く長い空間が 何処までも延びていた。

その鉄路の跡を辿り歩くと 昔はびっしりと敷かれていたはずの砕石が足の下でジャリジャリと音を立て、目的地が近いことを知らせてくれているようだ。僅かながら 生えている草が足を捉えたけれど 其処に辿り着くまでに通ってきた森の中と思えば どうということもない。

期待に胸膨らませて 暫く行くと 真っ暗なトンネルが行く手の山腹に現れた。 真っ暗な中を抜け 光の中に踏み込む。トンネルを抜けた先にも深い森が拡がっていた。




頭上から降り注ぐ木漏れ日。静寂に満ちた世界。止まった時間。

其処に 私が、恋い焦がれ探し求めたアイツの黒々とした巨体が姿を現した。



軸配置(ホワイト式) 4-6-4
(アメリカ式) ハドソン
(日本式) 2c2

軌間 1,067㎜

動輪径 1,750㎜

全長 21,475㎜

全高 3,980㎜

総重量 88.83t

最高速度 129㎞

その当時の狭道としては 世界最高速で駆けていた 緑一色の森の中に佇む、C62蒸気機関車。1948年からの二年間に 49両が製造された疾走する鉄の塊。 それが、今では 打ち捨てられ 顧みられることもなく 永遠の眠りに着いている。

そう、二度と彼は走る事はない。
何故なら 長い年月の内に 驚くべき変化が彼の身に起こっていたからだ。

見上げる程の蒸気機関車の巨体の上に 私の太股よりも太い根を何本も張り 蒸気機関車の車体の大半を占めるボイラーと同じくらいの太さの巨木が真っ黒な車体を踏みしめるように育っていたからだ。

なんで、こんな所に…

只々、唖然として見上げるしか出来ない。 どうして、こうなった!?

自然と口をついて出た問い掛けに答える者など この森の中に居るはずもない。 けれど、疑問への解を問わずにはいられなかった。

かつて 人の手により作られし蒸気機関車が再び走り出し この森を抜け出すのを まるで押し留めようとするかのように育った巨木の幹は ゴツゴツとした大きなコブと分厚い樹皮、そしてその上には翠の苔が覆っている。

廻りに生えている森の木々よりも ひときわ高くそびえる巨木の幹の太さを見ると どう考えても樹齢は数百年…。

…と言うことは、もしかしたら この巨木が 果てしなく拡がる森の最初の一本だったのかもしれない。

そう、貴婦人とも呼ばれたC62という名の蒸気機関車が 走ることを禁じられ 打ち捨てられてから 既に数百年以上の時が流れているのだから…。

ざわり ざわりと森の木々の梢が風に揺れる。 何処からともなく小鳥の囀ずり。

あり得ぬ光景が 目の前にあった。

私は、夢中で駆け寄り その鐵の車体に手を置いた。 勿論 その車体内部に燃えた火が落とされてから 長い年月が経ち 既に冷えきった筈だったのだが、どうした訳か 仄かな温もりが残っているかのように感じられるのは 何故なのだろう?

見上げると 巨木の折り重なる太い枝に生い茂る葉の間から キラキラと煌めく陽光が見える。 もしかしたら、この巨木が集めた日光が 蒸気機関車に温もりを伝えているのかもしれない… なんて事を考えてしまった。

私は、蒸気機関車の車体によじ登ったり 遠間から夢中になって ひとしきり この不思議な光景を カメラに納めると
満足の吐息を漏らし あらためて彼の黒い巨体を眺めた。

もう、二度と走り出すことの無い彼。

だけど、彼は死んだ訳ではない。 彼は、此処に 種子という命を運び、森を育み、今も見守り続けているのだろう。

文明が 破壊した自然が この星に 満ち溢れる その時が来るのを。

「ふふふ…」

私は、小さく笑い声を洩らした。

そうね、これは 私の夢…


もう、滅んでしまった…私たち人間たちの紡いだ夢の残照…


今も、さ迷い続ける… 私の魂が望む夢なのかもしれない。


私は、そんな風に 考えながら、森を抜け出し、荒廃した【外の世界】へと戻っていった。


振りかえると、何処か遠くで 警笛が

細く甲高く 鳴ったような気がした。




【止まった時間】……… 了
おはようございます(^0_0^)

文字書きを名乗りながら 最近ちっとも文章を書かない時帰呼です。

それでは いかんだろう!ってことで 久しぶりに【星屑】の続きをアップします。

とはいえ、なんだか【星屑】は オムニバスのようなSSになって来たので 今回だけ読んでも 大丈夫な仕様になっております。

そんな訳で 気が向いた方は 以下へお進みくださいませ。

内容は、エレ⇔ミシャとなっておりますので どなたでも安心して読んで頂けると思います。





【星屑】 その12


何処までも 遠くに駆けて行ける気がしていた。

振り向き 手を差し伸べると 其処には温かく柔らかな手が いつでも有った。



秋めいた風、何処からか聞こえてくる虫の声、走り抜ける林間に見え隠れする燃え上るような夕焼け…
夕日は、瞬く間に遠く連なるアルカディアの山際に没しようとしていた。

「ねぇ、ミーシャ そろそろ帰らないと…」

エレフが不意に立ち止まり 握りしめた手の感触を確かめるように力を込めると 双子の妹は駆け続けた為に荒くなった息の間に間に 苦しそうに、けれど けして弱々しくはなく 精一杯の力を込めて答えた。

「だめ!…泉に、泉に…行きたい…の」

「でも…」

エレフが体の弱い妹を思って そう言いかけると ミーシャは重ねて言った。

「約束…、だよね?」

そう、確かに約束した。 森の奥にある泉に映る月を捕まえに行こうと約束した。
けれども 其れは 別に今日じゃなくても良いんじゃないか? ほらこんなに 激しく打ち続けるミーシャの鼓動が聞こえてくるような気がするのだから。 ああ、でも、もしかしたら、これは…(自分自身の心臓の音なのかもしれない)

不思議と大人びた言葉が エレフの頭の中から聞こえてくる。(約束…、果たされなかった約束)


「ねぇ?聞いてる!?」

不意に聞こえて来たミーシャの問い詰める声に エレフは頭を振って我に返った。

「…うん、聞いてるよ」

「うそ!今 エレフ、何処かへ行ってた」

きゅうっと握りしめるミーシャの手が急に離れ、エレフ自身でさえ水鏡に映った虚像ではないかと思えるほど似た妹の顔が向こうを向いてしまった。

「ごめん!ごめんよ、ミーシャ」

どう言って 謝ったら良いのか分からないエレフは 唯、オドオドと両手をこぶしにして握りしめ 妹の背中に謝り続けるしかない。 そんな兄に背を向けたままのミーシャは 暮れゆく夕陽の赤い温もりを両頬に感じながら懸命に笑い声を押さえようと懸命だった。 …けれど、そんな抵抗など 自分の背中に謝り続けているエレフの声を聞いていると すぐに限界が来てしまい笑いださずにはいられなくなってしまう。

「クスクスクス…。もう良いよ エ・レ・フ」

少しばかり一音ごとに区切るように発音された自分の名前を聞きながら エレフは少しだけ腹立たしく思っていた。(いつも、こうだ…。)

女の子って分からないや。自分とまったく変わらない背丈の中に封じ込められた魂は 自分のものと違う色をしているようだ…と、思わずにはいられない。 もっとも、生まれてからずっと この山の中で 父母と愛するミーシャ以外の人間を 殆ど見た事のないエレフにとっては 他に同年代の子供なんて 一人も居なかったから本当は比べようも無い事だったんだけど…。

風が轟っと鳴って梢を揺らし 夜の帳が追いすがるように二人を蔽い尽くそうとしている。
エレフは 夜の闇が嫌いだった。目を見開いていても何も見えない 自分の姿さえ夜の闇は真黒に塗りつぶし 

その存在を呑みこもうとしてしまう そんな闇が…。 けれど、どんなに心細い時でも すぐ其処に温かなミーシャの手が いつでも有った。

どんな時でも 繋いだ手と手が二人の温もりを伝え ギュッと握った手の平を通じて二人の血の流れが交換されてゆくように感じられたから エレフは飲み込まれそうになる闇の誘惑を振り切る事が出来たのだったのだ。 

そう、エレフは闇が怖い訳ではなかった。それどころか闇に包まれる時、言い知れぬ心の安らぎを感じられずにはいられなかい…、其れゆえに いや、なおのこと誰もが恐れる闇を恐ろしく感じられぬ自分自身が恐ろしかった。

グイッっとミーシャの手に力が込められ 物思いに囚われていたエレフの手を引き戻す。
気付くとエレフは いつの間にか辿りついていた森の泉の縁に立っていた。

「エレフッ!」

ミーシャの声が不安に震えている。

「大丈夫…」

根拠のない言葉をミーシャに返しながら エレフはそっと柔らかなで温かなミーシャを抱きしめた。
こうすると 少しだけ母さんと同じ匂いがするような気がする。

「でも…」

ミーシャが耳元で言葉を継ごうとするのを遮りエレフは言った。

「ほら、あそこ」

エレフが指し示す泉の水面に まん丸な乳白色の月が まるで優しく微笑む女神様のように ゆらゆらと揺れながら浮かんでいる。 辺りは すっかりと闇の中に沈み 森の泉は黒々としたタールのようだ。

「綺麗!」

途端にミーシャの顔にポッと明かりが灯り エレフをギュッと抱き返した。

「ねぇ、取って」

「う、うん…」

取れっこないのは分かっていた。 其れでもエレフは、手を伸ばさずにはいられなかった。
泉の縁から身を乗り出し 精一杯右手を突き出す。

あと少し、あと少し…と手を伸ばす。 けれど水面に触れると お月さまはバラバラに崩れエレフの指先をすり抜けてしまう。 何度も何度も繰り返しても あんなに優しく微笑んでいるお月さまが意地悪な笑みを浮かべた仔鬼が からかうように するりと逃げ出してしまった。

「もういいよ、危ないよエレフ」

そう言いながらも 泉に落ちないようにエレフの左手を掴んでいたミーシャの声に ほんの少し落胆の響きが僅かに含まれていて 其れがエレフの胸をキュウッと締め付ける。

「ごめん、でも もっと大きくなったら きっと手が届くよ。きっと、いつか取ってあげる!」

そう言ったエレフの声が 少しだけ震えていた。

「もう、エレフったら!すぐに泣いちゃうんだから」

「泣いてなんかいないよ」

「そう?」

さっきのお月さまのように悪戯な笑みがミーシャの顔に浮かんでいる。そんな時のミーシャは ほんの少し嫌になっちゃうなとエレフは思った。

暗い森の暗い泉の水面に揺れる月。

目の前に立つ双子の妹の頬に その月明かりが反射して ほんのりと明るく紅を差している。

まるで 鏡を覗きこんだかのように そっくりの顔。
違う所と言えば 明るい銀髪に映える差し毛の色くらいのもの…。

ミーシャは、少し紫がかった赤い色。 エレフは、少し赤みがかった紫の色。

ふたりは あまりにも似すぎていたから 母さんは(なんとか)見分けがついたけれど、父さんは 度々兄妹を取り違えてしまって エレフとミーシャとエルフィナ母さんから怒られてばかりいた。 その事に すっかり参ってしまったポリュ父さんは 母さんに泣きついた。そして、一計を案じた母さんは双子に目印を付ける事にしたのだった。

エレフは右に紫の差し毛の三つ編み、ミーシャは左に赤い差し毛の三つ編みを。

今、向かい合ったミーシャの髪に 月明かりに照らし出された三つ編みが揺れている。
其れは いささか不揃いで 所々毛先が飛び出していたが 其れも仕方のない事だった。 
と言うのも 今朝がた慣れない手つきでエレフが編んだ物だったからだ。

勿論、初めの頃は 母さんがふたりの三つ編みを編んでくれていたのだけれど、最近はミーシャの提案で 双子が お互いに向かい合って座り お互いの髪を編む事にした。 エレフは手先の器用な方じゃないから そんな事はしたくなかったが ミーシャの笑顔を間近で見ていると めんどくさいはずの三つ編みが少しだけ楽しくなっていた。

「エレフ」

ミーシャが そっとエレフの三つ編みに手を伸ばす。 其処にはミーシャが結んでくれた髪留めのリボンがあった。

「ミーシャ」

エレフもまた ミーシャの三つ編みに手を伸ばし 同じようにエレフが結んだ髪留めのリボンに触れた。

「ずっと、一緒にいようね…」

ミーシャが そっと囁く。

「うん、ずっと一緒にいようね」

エレフもまた そっと囁き返した。

其れは ふたりの約束。

離れ離れになる事なんて有る筈も無いのに…、生まれてきてからずっと一緒にいて これからも ずっとずっと一緒にいられるに決まっているのに、交わした約束。

風がざわめき 冷たくふたりの頬を撫でる。

ふたりは同時に ぶるりっと身を振るわせ 肩に掛けたクラミス(外套)の端をかき合わせた。



「ねぇねぇ、お母さん お願いがあるの」

「なぁに、ミーシャ?」

ある朝 古くボロボロになった双子のクラミスを見て溜息を吐いていたエルフィナ母さんに ミーシャが話しかけた。

「そのクラミス どうするの?」

「そうね、長い間 あなたたちを暖めてくれた物だけど こんなにボロボロになっっては そろそろお役御免かなって思って…」

エルフィナは、山奥でひっそりと暮らす慎ましやかといえば聞こえが良いが 襤褸切れ一枚無駄に出来ない 実際は食うや食わずの貧しい生活を 可愛い子供たちに心配させないようにと力いっぱいの笑顔で答えた。

「捨てちゃうの?」

「いいえ、棄てはしないけれど 何かに使えないかなと思って」

途端に ミーシャの瞳が キラキラと輝く。

「じゃあ、私にくれない? ううん、全部じゃなくって良いの 端っこを ほんの少しだけ」

「何に使うの?」

ミーシャの言葉の勢いに気負わされながらも エルフィナは問い返した。

「えへ、其れはね…」







カタカタと鳴る窓を塞いだ風避けの板きれの端から 眩い朝の光が差し込んでいる。
外から小鳥の囀る声も聞こえ、どうやら昨夜の激しい嵐は何処かへと過ぎ去ってしまったようだ。

エレフセウスは 一晩中 吹き荒れる風雨の音にまんじりとも出来ずに 麦藁も無い剥き出しの土間の上で寝ていた為にギシギシと鳴る肩や背骨を伸ばしながら 壊れかけた入口の戸を押し開けて 一夜の寝床にした空家の外に出た。

「んー!」

彼は、紫の瞳を細め 嘘のように晴れ上がった青空に 絹糸のように細く流れるような軌跡を描いて浮かぶ白い雲を見上げて ひと言唸った。

さわさわと足元の草はらが風に揺らされ波打っている。 まるで緑の海原の様だ。

耳を澄ましても 風の音と 天高く舞う小鳥の声しか聞こえてこない。 見渡してみても エレフセウスが昨夜 寝床にした崩れ落ち掛けた石造りの一軒の小さな農家しか人の手による物は目に入ってこない。 かつて此処には数軒の家が肩を寄せ合い 慎ましやかな生活を営んでいた農村があったようだ。 だがしかし、今 それらは打ち続く戦火に焼け落ち その残骸さえ跡型も無く 辺り一面を蔽い尽くす草原の下に没してしまったようだ



「幸運だったな…、嵐の夜に雨ざらしで野宿なんて…」

エレフセウスは 誰に語りかけるでもなく独り事を言うと 振り返り一夜の宿とした廃屋に頭を垂れた。


「さて、これから 何処へ向かおう?」

まだ遠く見る事の出来ぬ海を目指すか 遥か遠くに霞んで見える山々を目指すか…とエレフセウスが考えあぐねていると 不意に かつて師と仰いだ老詩人の別れの際に贈られた鼻向けの言葉が聞こえて来た。

「うむ、行く宛ても無く 手がかりも無し…。あの人の言葉、あまり宛てになるとも思えぬが…」

数年にも及ぶ行き別れた双子の妹を捜す旅に すっかりと薄汚れボロボロになった衣を纏った若者は 其れでも疲れた素振りも無いしっかりとした足取りで再び歩み出した。

朝日を受けて輝く赤みがかった紫色の差し毛のある彼の銀髪が 吹き始めた秋風に ゆるやかに舞う猛禽の翼のように翻った。 そして、其の髪の右側には 今では手慣れて綺麗に編み込まれた三つ編みと 其の先に結び付けられた古びた布切れで作られたリボンが在った。










「其れはね、う~んとね…、私のクラミスの布でね エレフのリボンを作るの。
 其れでね、エレフのクラミスの布でね 私のリボンを作るの… 
 そしたらね、それをいつも付けていたらね、ずっとずっと一緒にいられるの!」

ミーシャは 自分の考えた計画にをクワクしながら 母親に話した。

「ふふっ、良い考えねミーシャ。其れで 其のリボンは誰が作るの?」

「ええぇ!?、母さん 作ってくれないの?」

「そうね、そう言う事なら できればミーシャが作ったらどうかなって、母さん思うの」

不意の提案にミーシャは戸惑いを隠せなかったが しばらく考えていると それもワクワクするなって思えてきた。

「わかった!そうする! でも、母さん…」

エルフィナは ニッコリと笑うと ミーシャをキュウっと抱きしめ言った。

「もちろん作り方は教えてあげる。 でも作るのはミーシャ、あなたよ?」

「やったぁ!ありがとう母さん!」



遠い日に交わされた約束。

果たされる事のなかった約束。

だから 今も、青年は歩き続ける。

たとえ どんなに遠い道のりでも。

その一歩一歩が 愛するモノへと近付く為に続く道のりだと信じて。

あの日 交わした約束を いつの日か きっと果たす事が出来るとと信じて。

青年は 歩き続ける。

いつの日か 愛するモノを抱きしめられる日が来ると信じて。





其れでも運命の輪は 容赦なく死スベキ者どもを踏みしだき 轟々と回り続けると言うのに…。





【星屑】 その12    ……to be continued.









めちゃくちゃ久しぶりで申し訳ありません。

最近、すっかり残業漬けの時帰呼です。

どうにもこうにも、疲れはてて 寝落ちばかりしている間に あっという間に時間は流れ去り、ブログを放置しっぱなし…(T^T)

これでは、ただ毎日 息をしているだけの無意味な生活になってしまいます。

そんなわけで、ほんの少しだけですが また文章を書いてみました。

本当に短いので 申し訳なさいっぱいで ごめんなさい。






【星屑】 その11




カラリッと乾いた音がした。
テーブルの上には革袋から取り出された数十本の細長い樫の棒が無造作に広げられている。

その内の一本を手に取るとオリオンは、目の高さに持ってきて目を細め ジッと その棒を見つめた。 三年も掛けて完璧に乾燥させた選りすぐりの木目の揃った材を 自らの手で丁寧に削り出したから そこらの武器職人が作った物よりも ずっと立派で歪みの無い矢を作れるだろう。

ふぅぅと溜め息…

あとはニカワを使って スコピーが苦労して手に入れてくれた東方のバルバロイが使うという黒い鏃を先端に取り付け 後部に矢羽根を付ければ完成だと言うのに オリオンの手は、そこで止まってしまった。

どうにも気乗りがしない…。 それと言うのも、先月の終わりにスコピーが姿を眩ませてしまったからだ。 いやいや、そんなことは今までにも何度もあったことだから 気にすることはない… どうせ他所の国へ行って 何かしらの悪巧み…、いや失礼!根回しをしているに違いないのだから。
そう…、気にすることなんて無いはずなんだ。 だと言うのに、何だろう? このどうしようもない不安感は…。

「今日は、仕事にならないな」

そう一言呟くとオリオンは、手にしていた作りかけの矢を 放り出し 部屋の片隅にある寝台の上に身を横たえた。
目を閉じ ふぅぅと深呼吸をすると 寝具に染み込んだ留守にしているこの部屋の主の匂いが肺の中いっぱいに充たされ 何とも言えない悲しい気分になってしまった。

不意に、頬をひと雫の涙が流れたが オリオンはすぐにそれを拭い去った。 誰が見ていると言うわけでもないが たかが中年の男一人が居ないぐらいで 泣いてしまうなんて 自分自身が恥ずかしくて仕方なかったからだ。

いつからこんな風になってしまったんだろう? 天涯孤独の身という境遇を嘆いたことなど 物心ついてから 一度として無かった筈だ…。 暖かい温もりなど 生涯縁の無いものだと思っていた。

そうだ、此れというのも 全部 彼奴のせいだ。 あの、妙に暗い紫色の瞳をした あのエレフセウスという少年奴隷の…。

自分自身の歳でさえ 判然とはしていなかったから 確かなことは言えないが、彼奴も俺と同じく太陽が影に覆われ 世界が闇に沈んだ日の朝に産まれたと言っていたから たぶん同い年なんだろう。

粗暴で むさ苦しい男が押し込められた奴隷小屋の中で 同じ年ごろの子供に出会った物珍しさも手伝ったのだろうが、彼奴が世界の不幸の全てを背負い込んだとでも言うような あんまりにも暗い目をしていたもんだから、 俺は(他人になんか構っていられないと思っていたというのに) あの家畜小屋以下の悪臭ふんぷんとした奴隷小屋で、止せば良いのに ついつい声を掛けてしまったんだ。

エレフの奴は身の上話を滔々と語るような奴ではなかったが 俺が何度も何度も気にかけて話しかけていると しばらくして重い口を開いた。 もっとも聞いたところで ありきたりの奴隷商人に幼い頃に拐われたという話だったのだけれど、俺は 奴が語る時の真っ黒な穴ボコのような瞳の暗い光に どういう訳だか すっかり魅せられてしまったんだ。

それからというもの、俺は ろくに石ころも運べないような ひょろひょろの彼奴を庇って 必要以上に奴隷監督官様の無知を… いや、失礼!鞭を有り難く頂戴する毎日になったって寸法だ。 ほんとう、俺って物好きだね。

まぁ、それも長くは続かなかったんだが…。 幸いにして 我が奴隷小屋担当の監督官様は お身体の虚弱な方が歴任されたようで エレフに手を出した翌日には 何故だかは知らないけれど急病に掛かって 即刻お亡くなりになったり 行方不明になったりしたものだから暫くすると監督官様も 我が愛しの奴隷小屋の様子など気に掛けず見廻りもしなくなっちまったんだな。

それにしても、彼奴… 今ごろ 何処で何をしているんだろう?

そんなことを思いながら 寝台に横になり天井を見上げている内に いつしか思考は一巡し どれ程待っても帰らぬ部屋の主の顔事をオリオンは思い出していた。



そうだな、もしかしたら スコピーに惹かれたのも その赤い瞳の色に隠された暗い光に魅せられてしまったのかもしれない… (なんてことあるわけ無いよな)

ああ、それにしても いったい何処をほっつき歩いてやがるんだ? あんたの安否など 実の親のデミュトリウス王でさえ気に掛けてなどいないというのに… 赤の他人の俺様が こんなに……。

オリオンは 両の掌を瞼の上にあてると 小刻みに身を震わせながら くぐもった声を漏らした。

押さえようもない空虚感… 抱き締められた肌の温もり、押さえ付けられた喉の感触…。 今この瞬間にくびり殺されたとしても なんの後悔も心残りも無いという充足感…。 其れが 得られるのならば、再び味わえるのならば、 何をも犠牲にしても構わぬ…、 何をも生け贄に捧げたとしても 罪悪感を感じる事などあり得ぬという確信。 それが、オリオンを突き動かしている衝動に他ならなかったのだ。


それに思い当たると オリオンは、瞼の上に当てていた掌を口に強く押て 再び声を漏らした。

だがそれは、親に見棄てられた幼子が泣くような弱々しい声ではなく 荒々しい岩山に響く風のような渇いた空虚な笑い声だ。

そう…、あんたが望むなら 中天に浮かぶ月をも射落としてやろう。 あんたが望むなら オリュンポスの山に住む
神々にも矢を向けよう。

もし、あんたが望むなら…

不意に開け放たれた部屋の扉が 音を立てた。 急いで起き上がったオリオンが首を廻らしたが、それは 吹き始めた夏の熱い風が扉を揺らしただけだった。

深くため息をひとつ吐いたオリオンが、青い瞳を開かれた扉の向こうに向けると そこには色濃く落ちた回廊の柱の影と紺碧の海の色を思わせる夏の蒼い空が広がっているだけだった。



……to be continued
まだまだ 調子が出ないけれど なんとか文章を書いています。

掲載間隔があいてしまい 申し訳ありません。


【星屑】の続きです。







【星屑】その10


「もう!この仔ったら」

ミーシャが 少しばかり声を大きくすると 黒犬は小さく クゥーンンと物悲しげに鳴いた。

それを見たスコルピオスは 内心ホッとしながら首を廻すと 窓の外の暗がりが 少しばかり白んで来ている事に気付いた。 どうやら長居し過ぎたようだ。

「すまない、人目に付けば悪い噂が立つ。私は、此処らで退散するとしよう」

「私は、少しも構いませんよ」

その言葉にスコルピオスは ドキリとしながらも なんとか心の動揺を隠し通す事が出来た。

「言いたい人には 言わせておけば良いのです」

言葉を続けたミーシャの顔には スコルピオスが見たことの無い 暗い影が見えた。

「此処に来ると つい気が緩んでしまうらしい、日頃の疲れのせいか 居眠りをしてしまった。すまない…」

何故かは分からない妙な居心地悪さを感じ急いで立ち上がろうとしたスコルピオスは、グラリと酷い眩暈に襲われた。 膝が崩折れそうになった彼を ミーシャが支えようとしたが その手をスコルピオスは、とっさに振り払ってしまった。

途端にガウッと一声ほえたプルーがスコルピオスに襲い掛かる。

「プルー!」

ミーシャが必死でプルーを引き離すと 傷ついた手の甲を押さえたスコルピオスがうずくまって居た。

「大変!すぐに手当てを…!」

「いや、大事無い…、私が悪かったのだ。そうだろう…?プルー」

そう言ったスコルピオスの目には 悲しげな色が浮かび、それが ミーシャの心を強く締め付けた。

「でも……」

「どうも私は、他人から身体に触れられるのが苦手でね…。すまない事をした」

二の句を接ぐ事が出来ずにいるミーシャを残し スコルピオスは、足速に部屋を後にした。

ミーシャの質素な部屋の中に居ると どうしても感じてしまう心を緩ませてしまう温かさ。 その呪縛から あの犬は解き放ってくれた。

「むしろ礼を言いたいくらいだ」

ズキズキと痛む手の甲は、思いの外 深手のようだが構いはしない、 あのままミーシャに触れられていたならば…、 余程 その方がゾッとする。

レスボスの巫女ミーシャには、余人には無い力がある。 スコルピオスも その目で見るまでは信じられはしなかったが 物に触れただけで その持ち主の素性をビタリと当てたり、それが何か特別な事象に関わった物ならば その事件を まるで目前に見るかのように感じられるのだ。

「よくも、あんな薄気味悪い娘の部屋へ 足しげく通う気になるものね」

真っすぐに何処までも続く回廊の柱の陰から 人影がふらりと現れ口を開いた。

僥倖も差し込まぬ闇の中にあっても それが誰の声かは、すぐに分かったスコルピオスは、まるで神殿に巣くう大きな黒い蝙蝠のように 一飛びで音も無く詰め寄ると 彼の猛禽の鉤爪ような節くれだった指を 声の主の細い首に食い込ませキリリと締め上げた。

「あまり人を驚かせるものではない…」

さらに指先に力を込めながらスコルピオスは、獰猛な笑みを浮かべ そっと告げると声の主フィリスは、息も絶え絶え震えながら、いや半ば痙攣しながら慈悲をこうた。

「ふんっ…」

溜息とも憤慨ともつかぬ一声を漏らすと 遊び飽きた玩具を放り出すように スコルピオスは、フィリスを突き放すと問い質した。

「…で、何の用だ」

フィリスは、冷たい大理石の床に膝を付き 押し潰されかけた喉笛から皺枯れた声を搾り出す。

「ご、め、んな・さ…い、 スコルピオス…」

「その名で呼ぶな! 私は、只の貿易商人アルギュロスだ」

スコルピオスは、再びフィリスを 残酷な笑みを浮かべながら睨み据えた。

………to be cootinued.
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