残念な時帰呼が綴る 残念な感じのON>OFF生活


総閲覧者数: 現在の閲覧者数:

2013/031234567891011121314151617181920212223242526272829302013/05


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
先日、完結した【星屑】のエピローグです。

なんだか、書き足りなかったので……。









【星屑】エピローグ



空は 重々しく雲が立ち込め、風は俄に湿り気を帯びてきたようだ。

他に人影のない荒野で 長く延び放題になったざんばら髪を振り乱した老人が 天を仰ぎ 何やら悪態を吐いた。 どうやら、天空に住まう雷神に向かってのものらしい。

「ふむ、お前は もう死んだのだ。 いくら文句を言おうが 無駄よ 無駄……」

途端に 雷鳴が轟き 天の底が割れたかと思うような 土砂降りの雨が降ってきた。

「なんと、今度は 実力行使に出たか……、まぁ 良い、ちょうど垢を流したいと思っていたところだ」

老人は 手にした杖に取りすがるようして 雨に打たれながら ゆっくりと歩き出した。
その足取りは 長年の旅の暮らしにすっかり痛めてしまった膝の為か よろよろと 今にも倒れ伏してしまいそうに見える。

だが、けして老人は 歩むのを止めようとはしない。 どんなに身体の節々が悲鳴を上げようと 構わずに歩を進める。 ゆっくり ゆっくりと 一歩づつ。

目的地が有るわけではない。 ただ宛ど無く さ迷い歩き続ける。 そう、何十年もの間 ただひとり。


老人は夢を見た。

かつて 大地を駆け 城壁を破り 余多の人々を屠ふり続けた夢。

あれは、本当に夢だったのだろうか?

時に 老人は 己の記憶が曖昧に霞みゆく中で 思い起こす。

けれど どんなに記憶の奥を覗き込もうとしても 其れは真っ黒な闇に沈んで はっきりとは思い出せない。
老人は、ずぶ濡れになりながら独白する。

「なに、どうでもよいことだ……」



唐突に老人は 誰に聞かせるわけでもなく 雨音と鳴り響く雷鳴に掻き消されようと少しも構わずに 朗々と詩を歌い出した。 其れは まだ老人が少年だった頃、今では名前も忘れてしまった白髪の老詩人から教わった 古の詩だ。

この世の始まり 神々の誕生から 死すべき者が大地に満ち 愚かにも相争う物語を歌う詩。 そして、死に逝く者を哀れむ詩。

閃光が走り 雷鳴が轟く

雨足は更に激しくなってきた。

老人の歌う詩は、それでも途切れることはなかった。


*****


夢を見た。

温かな夢だ。

遠の昔に忘れ去ったはずの温もり。

手を伸ばせば 確かに有った温もり。

寒い冬の夜も ぎゅっと抱きしめれば 同じように ぎゅっと抱きしめ返してくれる存在。

唯一無二……、

生まれる前から ふたつは ひとつ

別たれる事などあり得るはずもなかった。


「クスクスクス」

「何が 可笑しいの?」

「ううん、なんでもない。 ただ、なんとなく……あったかいなって……」

「あったかいと 笑うの?」

「ううん、そうじゃないの。 なんだか ふたりは ぴったりだなって……」

「ぴったりだと笑うの?」

「うん、もう! エレフったら、わからないの?」

「ごめん、さっぱり……」

「しかたないな、ぎゅっ!」

「痛いよ ミーシャ!」

「あーぁ、やんなっちゃう! 」


毎晩、寝床の中で 繰り広げられる お決まりのお芝居。

ふたりは、信じていた。 このしあわせが永遠に続くとばかり信じていた。

だって、ふたりの世界は 確かに有って、昨日も今日も 退屈なほど同じような平和な日常が、繰り返し 繰り返し 永遠に続いてゆくとばかり思っていたのだから。

エレフの頬に ミーシャが軽くキスをした。

それもまた、繰り返し 繰り返し 繰り返される毎晩のお約束。

エレフも ちょっとばかり照れながら ミーシャの頬にキスをしたら 胸の中が あったかくなった。



*****



ふわりと なにかが 頬をなでた


ふと 老人が目覚めると 満天の星空
まるで降り頻る雨のような数えきれぬ星々

辺りに人家の無い土地では 夜空が こんなにも明るいのかと驚かされる

そして、中天高く 煌々と輝く銀色の月。 今宵は満月だったのだなと 老人は呟いた。

いつの間にか 豪雨と雷雲は去り、何処までも続く荒野の上には 果てしない星空が広がっている。

雨に打たれ 大地に倒れた老人は ずぶ濡れになったまま 星々が煌めく天蓋を見上げていた。

なんだろう?
忘れ去ったはずの 何か とても大切なモノを夢に見た気がする。 何か 温かな記憶の欠片を思い出しかけた気がした。

老人は 皺枯れ 痩せさらばえた右腕を 天に掛かる銀色の満月に差し上げ その指で掴み取ろうとした。

届くはずもない月を……



疲れた。

もう 歩き疲れたよ……。

老人は 涙で滲む満月に向かって囁いた。


無くしてはならないモノを 無くしてしまった。

この世で 最も大切で ふたつと無い宝物を壊してしまった。

彼は 果てしなく続く荒野を探し歩いてきた。

そう、果てしなく続く孤独の荒野をさ迷い歩きながら 二度と巡り逢う筈もない 何か大切なモノを求めて……。


星々は 幼き日に見た無垢なる清浄な煌めきで 老人の上に広がり、大きな大きな満月が無情な白銀の光を投げ掛けている。


老人の皺だらけの頬に一筋の涙が流れると、口元に 微かな笑みが浮かんだ。

もう何十年もの間 感じる事の無かった温もりを 不意に感じたような気がしたから……

その温もりは 彼の耳元で そっと囁いた。

「もう、いいんだよ……」


其れが たとえ荒野に吹く夜風の音だったとしても、彼には 確かに そう聞こえた。




ひとは星屑

大地に零れ堕ちた 無数の星屑

迷い、苦しみ、笑い、歌い、そして 大地に堕ちた時に ふたつに別たれた もうひとつの星屑を 探す旅を続ける星の欠片。




嵐の去った 荒れ果てた荒野の上には 真ん丸な月が ぽっかりと浮かび

数えきれない星々が 冴え渡る夜空に きらきらと瞬き続けている。


けれど、

間も無く 次の朝が来るのだろう……

東の空が 微かに白んできたようだ。




そう、夜が 終わる

明けないとさえ思えた

長い夜が終わるのだ。




【星屑】エピローグ …… 了
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。