残念な時帰呼が綴る 残念な感じのON>OFF生活


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おはようございます(^0_0^) またまた久しぶりの更新になってしまいましたが 戻ってまいりました。

さて、本日 アップするのは ミュロスとエレフの二人旅の一幕。 他愛もないお話しですが、宜しければ 以下へお進み下さいませ。



【風のように鳥のように / 温石】





「そもそも師弟というものはじゃな…」

老人は そう言いながら 手にした小枝で 勢いよく燃え出した焚火を 意味も無く突き回し続けていた。

「あのさぁ、爺さん。 別に俺は弟子になった覚えは無いんだけど…」

「まぁ、黙って聞きなさい」

そう言われて、エレフは口をへの字に曲げて肩をすぼめたが、老人は構わずに話しを続けた。

二人の間には 燃え盛る焚火の火にあぶられている串に刺された一匹の魚があった。

エレフと老人が 一日がかりで釣りをして ようやく手に入れた本日の食材の全てが このちっぽけな魚一匹である。

「人生の先輩である年長者を敬うのは 人としての最低限の成す可き事であるのだから 自分より年上の者は これ全て師匠と言わねばならぬ」

いつもの小難しい屁理屈をこね出してはいるが 要は この小さな魚を如何にして平等に二人で分けるかという 他愛もない問題を論じているのだ。

だが、二人の腹の中の虫にとっては重大事のようで 先程から大声で不平を述べていた。

昼間の晴天が嘘のように荒れ狂っている山小屋の外の音を聞きながら 天候が崩れる前に屋根の下に避難出来たのは まさに神の思し召しと感謝はしたが その神族の御蔭で 二人が この人里離れた山小屋に閉じ込められたのも事実である。

「さてさて、どうしたものか?」

老人は長く伸びた白い髭をさすりながら 首を捻っている。

「この小さな魚を 二人で分け合えば良いというのは 浅はかな考えじゃ。 さすれば確かに一見平等に見えるが さにあらず。 老人と若者とでは、必要とする食事の量が おのずと違う! このまま二ツにわければ空腹の者二人が腹の虫の合奏を明朝まで奏でる羽目になるだけじゃ」

「じゃあ、どうしようってんだ?…お師匠」

「そう、そこでじゃ、老い先短い老人の腹を満たすよりも 未来有る若者のまだまだ未発達な身体の血肉になった方が この小さな魚にとっても自然の摂理に叶うというのが道理じゃ…。 だがな、その考え方もまた 人間の勝手な屁理屈で 尊い命を奪われた この魚にとっては関係の無い事…」

(あらら…、お師匠、自分で屁理屈と言っちゃったよ)

「なんじゃ?エレフ、妙な顔をして…? 師の話しを真剣に聞かんか! …と、何処まで話したかの? そうそう、しかしながらじゃ! この魚が命を奪われたのもまた 弱肉強食という自然の摂理であり 敗者である魚には文句を言う権利は無い。もし文句が有るならば 大海に棲む鮫の如く 人間を喰らう程の覚悟で抗い戦えば良かったのじゃ! もし、欲しい物があり、失いたくない物が有れば 力の限り戦い、その結果 敗れたのならば それも天命、諦めもつくというものじゃないのかな?」

そこまで一気にまくし立てた老人は 皺だらけの顔を紅潮させて またもや白い髭をゆっくりと撫でさすっている。 自分でも 途中で訳の分からなくなりかけた屁理屈を 最終的に言いたかった屁理屈に持って来れた事に満足しているらしい。

(ようするにだ…)

「この魚をかけて勝負しようって話しかい?師匠!」

髭を撫でていた手を止め 老人は、我が意を得たりとばかりにニヤリと笑った。

「うむ、その通り。 エレフ、お前も少しづつ 物の道理という物が分かって来たようじゃな」

エレフは 深々と溜息をついた。 なんと大人げ無い…。 自分が この老人を仮にも師匠と(心の底では)思っているのは 何も老人の吟ずる詩や歌によるものではない。 こう見えて このしょぼくれた老人は…

「どうした? 戦う前に諦めるのか? 運命の女神は 戦わぬ者に けして微笑む事は無いのじゃぞ?」

老人は 傍らの杖を引き寄せると 胡座をかいたまま それを膝の上に置き両手をそっと乗せた。普通の老人ならば 隙だらけの何気ない姿にしか見えないのだが…

「ほれ、早くせい! 魚が焦げてしまうぞい! たった一太刀で良い わしに当てられたら おぬしの勝ちじゃ」

エレフは 積み上げられていた薪から 出来るだけ長く それでいて振り安い重さの物を選ぶと それをゆっくりと構えた。

「うむ、なかなか様になって来たのう」

老人は 座ったまま立ち上がろうとも、ジリジリと老人の利き腕の反対側から背後に回り込もうとするエレフに向き直ろうともせずに じっと揺れ動く焚火の焔を見ている。

エレフは 身動きせぬ老人の ほとんど真後ろに達すると息を止め 静かに薪を振りかぶった。


(迷っていては 打ち込めぬ事は分かっている…)

エレフは 唇を噛み締めると 全力で薪を 老人の脳天目指して振り下ろした… が!

それは、何気ない動作だった。
老人は 居眠りしていて舟を漕ぐかのように揺らりと上半身を傾けると 右手で膝の上の杖の端を軽く押し下げ、それにより杖はヒヨイッ!と真っ直ぐに跳ね上がった。

カツンッ!


乾いた音がすると同時に エレフの渾身の力を込めた薪が 老人の杖に山小屋の隅にまで跳ね飛ばされてしまった。



「いつも言うとるじゃろう…。 おぬしは力み過ぎだと。そんな事では…」

老人は 何の味も付けてない魚を美味そうにかじりながら エレフに講義していた。 老人の剣術の教えは けして難しい事は言わないが 何故か エレフにはなかなか実践出来なかった。

「そうそう、そうやって頭で考えているようでは いつまで経っても この老い先短い老いぼれにさえ勝てはせぬぞ!」

なんと可愛いげの無い老人なのだろう。たった一匹の魚を平らげると 満足そうに魚の小骨で歯の掃除を始めた。

だが、まぁ良い。 確かに小憎らしく腹立たしい老人だが 教えを請わねばならぬ事は まだまだ沢山有るのだ。たかが一匹の魚くらい 安い授業料だと言えるだろう。

そう、自分を無理矢理納得させようとしたエレフの腹の虫が 一際大きく不平の声を上げ、それを聞き付けた老人が 何やらボロ布で包んだ物をエレフに投げて寄越した。


「ほれっ…!」

エレフが それを拾い上げると ボロ布を通して温もりが伝わって来た。

「焚火で温めた温石じゃ。そいつを腹に当てれば 少しは空腹が紛れるじゃろう」

成る程、エレフが温石を腹に当てると、たしかに 多少腹の虫がおさまったように感じる。 エレフは、やれやれと思いながらも、一言師匠に礼を言った。

「これも、老人の智恵。自然の摂理じゃ!」

そう言ってカラカラと笑う老人に邪気は無く まるで悪戯好きの子供のようだった。


【風のように鳥のように / 温石】……… 了
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