残念な時帰呼が綴る 残念な感じのON>OFF生活


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おはようございます(^0_0^)

文字書きを名乗りながら 最近ちっとも文章を書かない時帰呼です。

それでは いかんだろう!ってことで 久しぶりに【星屑】の続きをアップします。

とはいえ、なんだか【星屑】は オムニバスのようなSSになって来たので 今回だけ読んでも 大丈夫な仕様になっております。

そんな訳で 気が向いた方は 以下へお進みくださいませ。

内容は、エレ⇔ミシャとなっておりますので どなたでも安心して読んで頂けると思います。





【星屑】 その12


何処までも 遠くに駆けて行ける気がしていた。

振り向き 手を差し伸べると 其処には温かく柔らかな手が いつでも有った。



秋めいた風、何処からか聞こえてくる虫の声、走り抜ける林間に見え隠れする燃え上るような夕焼け…
夕日は、瞬く間に遠く連なるアルカディアの山際に没しようとしていた。

「ねぇ、ミーシャ そろそろ帰らないと…」

エレフが不意に立ち止まり 握りしめた手の感触を確かめるように力を込めると 双子の妹は駆け続けた為に荒くなった息の間に間に 苦しそうに、けれど けして弱々しくはなく 精一杯の力を込めて答えた。

「だめ!…泉に、泉に…行きたい…の」

「でも…」

エレフが体の弱い妹を思って そう言いかけると ミーシャは重ねて言った。

「約束…、だよね?」

そう、確かに約束した。 森の奥にある泉に映る月を捕まえに行こうと約束した。
けれども 其れは 別に今日じゃなくても良いんじゃないか? ほらこんなに 激しく打ち続けるミーシャの鼓動が聞こえてくるような気がするのだから。 ああ、でも、もしかしたら、これは…(自分自身の心臓の音なのかもしれない)

不思議と大人びた言葉が エレフの頭の中から聞こえてくる。(約束…、果たされなかった約束)


「ねぇ?聞いてる!?」

不意に聞こえて来たミーシャの問い詰める声に エレフは頭を振って我に返った。

「…うん、聞いてるよ」

「うそ!今 エレフ、何処かへ行ってた」

きゅうっと握りしめるミーシャの手が急に離れ、エレフ自身でさえ水鏡に映った虚像ではないかと思えるほど似た妹の顔が向こうを向いてしまった。

「ごめん!ごめんよ、ミーシャ」

どう言って 謝ったら良いのか分からないエレフは 唯、オドオドと両手をこぶしにして握りしめ 妹の背中に謝り続けるしかない。 そんな兄に背を向けたままのミーシャは 暮れゆく夕陽の赤い温もりを両頬に感じながら懸命に笑い声を押さえようと懸命だった。 …けれど、そんな抵抗など 自分の背中に謝り続けているエレフの声を聞いていると すぐに限界が来てしまい笑いださずにはいられなくなってしまう。

「クスクスクス…。もう良いよ エ・レ・フ」

少しばかり一音ごとに区切るように発音された自分の名前を聞きながら エレフは少しだけ腹立たしく思っていた。(いつも、こうだ…。)

女の子って分からないや。自分とまったく変わらない背丈の中に封じ込められた魂は 自分のものと違う色をしているようだ…と、思わずにはいられない。 もっとも、生まれてからずっと この山の中で 父母と愛するミーシャ以外の人間を 殆ど見た事のないエレフにとっては 他に同年代の子供なんて 一人も居なかったから本当は比べようも無い事だったんだけど…。

風が轟っと鳴って梢を揺らし 夜の帳が追いすがるように二人を蔽い尽くそうとしている。
エレフは 夜の闇が嫌いだった。目を見開いていても何も見えない 自分の姿さえ夜の闇は真黒に塗りつぶし 

その存在を呑みこもうとしてしまう そんな闇が…。 けれど、どんなに心細い時でも すぐ其処に温かなミーシャの手が いつでも有った。

どんな時でも 繋いだ手と手が二人の温もりを伝え ギュッと握った手の平を通じて二人の血の流れが交換されてゆくように感じられたから エレフは飲み込まれそうになる闇の誘惑を振り切る事が出来たのだったのだ。 

そう、エレフは闇が怖い訳ではなかった。それどころか闇に包まれる時、言い知れぬ心の安らぎを感じられずにはいられなかい…、其れゆえに いや、なおのこと誰もが恐れる闇を恐ろしく感じられぬ自分自身が恐ろしかった。

グイッっとミーシャの手に力が込められ 物思いに囚われていたエレフの手を引き戻す。
気付くとエレフは いつの間にか辿りついていた森の泉の縁に立っていた。

「エレフッ!」

ミーシャの声が不安に震えている。

「大丈夫…」

根拠のない言葉をミーシャに返しながら エレフはそっと柔らかなで温かなミーシャを抱きしめた。
こうすると 少しだけ母さんと同じ匂いがするような気がする。

「でも…」

ミーシャが耳元で言葉を継ごうとするのを遮りエレフは言った。

「ほら、あそこ」

エレフが指し示す泉の水面に まん丸な乳白色の月が まるで優しく微笑む女神様のように ゆらゆらと揺れながら浮かんでいる。 辺りは すっかりと闇の中に沈み 森の泉は黒々としたタールのようだ。

「綺麗!」

途端にミーシャの顔にポッと明かりが灯り エレフをギュッと抱き返した。

「ねぇ、取って」

「う、うん…」

取れっこないのは分かっていた。 其れでもエレフは、手を伸ばさずにはいられなかった。
泉の縁から身を乗り出し 精一杯右手を突き出す。

あと少し、あと少し…と手を伸ばす。 けれど水面に触れると お月さまはバラバラに崩れエレフの指先をすり抜けてしまう。 何度も何度も繰り返しても あんなに優しく微笑んでいるお月さまが意地悪な笑みを浮かべた仔鬼が からかうように するりと逃げ出してしまった。

「もういいよ、危ないよエレフ」

そう言いながらも 泉に落ちないようにエレフの左手を掴んでいたミーシャの声に ほんの少し落胆の響きが僅かに含まれていて 其れがエレフの胸をキュウッと締め付ける。

「ごめん、でも もっと大きくなったら きっと手が届くよ。きっと、いつか取ってあげる!」

そう言ったエレフの声が 少しだけ震えていた。

「もう、エレフったら!すぐに泣いちゃうんだから」

「泣いてなんかいないよ」

「そう?」

さっきのお月さまのように悪戯な笑みがミーシャの顔に浮かんでいる。そんな時のミーシャは ほんの少し嫌になっちゃうなとエレフは思った。

暗い森の暗い泉の水面に揺れる月。

目の前に立つ双子の妹の頬に その月明かりが反射して ほんのりと明るく紅を差している。

まるで 鏡を覗きこんだかのように そっくりの顔。
違う所と言えば 明るい銀髪に映える差し毛の色くらいのもの…。

ミーシャは、少し紫がかった赤い色。 エレフは、少し赤みがかった紫の色。

ふたりは あまりにも似すぎていたから 母さんは(なんとか)見分けがついたけれど、父さんは 度々兄妹を取り違えてしまって エレフとミーシャとエルフィナ母さんから怒られてばかりいた。 その事に すっかり参ってしまったポリュ父さんは 母さんに泣きついた。そして、一計を案じた母さんは双子に目印を付ける事にしたのだった。

エレフは右に紫の差し毛の三つ編み、ミーシャは左に赤い差し毛の三つ編みを。

今、向かい合ったミーシャの髪に 月明かりに照らし出された三つ編みが揺れている。
其れは いささか不揃いで 所々毛先が飛び出していたが 其れも仕方のない事だった。 
と言うのも 今朝がた慣れない手つきでエレフが編んだ物だったからだ。

勿論、初めの頃は 母さんがふたりの三つ編みを編んでくれていたのだけれど、最近はミーシャの提案で 双子が お互いに向かい合って座り お互いの髪を編む事にした。 エレフは手先の器用な方じゃないから そんな事はしたくなかったが ミーシャの笑顔を間近で見ていると めんどくさいはずの三つ編みが少しだけ楽しくなっていた。

「エレフ」

ミーシャが そっとエレフの三つ編みに手を伸ばす。 其処にはミーシャが結んでくれた髪留めのリボンがあった。

「ミーシャ」

エレフもまた ミーシャの三つ編みに手を伸ばし 同じようにエレフが結んだ髪留めのリボンに触れた。

「ずっと、一緒にいようね…」

ミーシャが そっと囁く。

「うん、ずっと一緒にいようね」

エレフもまた そっと囁き返した。

其れは ふたりの約束。

離れ離れになる事なんて有る筈も無いのに…、生まれてきてからずっと一緒にいて これからも ずっとずっと一緒にいられるに決まっているのに、交わした約束。

風がざわめき 冷たくふたりの頬を撫でる。

ふたりは同時に ぶるりっと身を振るわせ 肩に掛けたクラミス(外套)の端をかき合わせた。



「ねぇねぇ、お母さん お願いがあるの」

「なぁに、ミーシャ?」

ある朝 古くボロボロになった双子のクラミスを見て溜息を吐いていたエルフィナ母さんに ミーシャが話しかけた。

「そのクラミス どうするの?」

「そうね、長い間 あなたたちを暖めてくれた物だけど こんなにボロボロになっっては そろそろお役御免かなって思って…」

エルフィナは、山奥でひっそりと暮らす慎ましやかといえば聞こえが良いが 襤褸切れ一枚無駄に出来ない 実際は食うや食わずの貧しい生活を 可愛い子供たちに心配させないようにと力いっぱいの笑顔で答えた。

「捨てちゃうの?」

「いいえ、棄てはしないけれど 何かに使えないかなと思って」

途端に ミーシャの瞳が キラキラと輝く。

「じゃあ、私にくれない? ううん、全部じゃなくって良いの 端っこを ほんの少しだけ」

「何に使うの?」

ミーシャの言葉の勢いに気負わされながらも エルフィナは問い返した。

「えへ、其れはね…」







カタカタと鳴る窓を塞いだ風避けの板きれの端から 眩い朝の光が差し込んでいる。
外から小鳥の囀る声も聞こえ、どうやら昨夜の激しい嵐は何処かへと過ぎ去ってしまったようだ。

エレフセウスは 一晩中 吹き荒れる風雨の音にまんじりとも出来ずに 麦藁も無い剥き出しの土間の上で寝ていた為にギシギシと鳴る肩や背骨を伸ばしながら 壊れかけた入口の戸を押し開けて 一夜の寝床にした空家の外に出た。

「んー!」

彼は、紫の瞳を細め 嘘のように晴れ上がった青空に 絹糸のように細く流れるような軌跡を描いて浮かぶ白い雲を見上げて ひと言唸った。

さわさわと足元の草はらが風に揺らされ波打っている。 まるで緑の海原の様だ。

耳を澄ましても 風の音と 天高く舞う小鳥の声しか聞こえてこない。 見渡してみても エレフセウスが昨夜 寝床にした崩れ落ち掛けた石造りの一軒の小さな農家しか人の手による物は目に入ってこない。 かつて此処には数軒の家が肩を寄せ合い 慎ましやかな生活を営んでいた農村があったようだ。 だがしかし、今 それらは打ち続く戦火に焼け落ち その残骸さえ跡型も無く 辺り一面を蔽い尽くす草原の下に没してしまったようだ



「幸運だったな…、嵐の夜に雨ざらしで野宿なんて…」

エレフセウスは 誰に語りかけるでもなく独り事を言うと 振り返り一夜の宿とした廃屋に頭を垂れた。


「さて、これから 何処へ向かおう?」

まだ遠く見る事の出来ぬ海を目指すか 遥か遠くに霞んで見える山々を目指すか…とエレフセウスが考えあぐねていると 不意に かつて師と仰いだ老詩人の別れの際に贈られた鼻向けの言葉が聞こえて来た。

「うむ、行く宛ても無く 手がかりも無し…。あの人の言葉、あまり宛てになるとも思えぬが…」

数年にも及ぶ行き別れた双子の妹を捜す旅に すっかりと薄汚れボロボロになった衣を纏った若者は 其れでも疲れた素振りも無いしっかりとした足取りで再び歩み出した。

朝日を受けて輝く赤みがかった紫色の差し毛のある彼の銀髪が 吹き始めた秋風に ゆるやかに舞う猛禽の翼のように翻った。 そして、其の髪の右側には 今では手慣れて綺麗に編み込まれた三つ編みと 其の先に結び付けられた古びた布切れで作られたリボンが在った。










「其れはね、う~んとね…、私のクラミスの布でね エレフのリボンを作るの。
 其れでね、エレフのクラミスの布でね 私のリボンを作るの… 
 そしたらね、それをいつも付けていたらね、ずっとずっと一緒にいられるの!」

ミーシャは 自分の考えた計画にをクワクしながら 母親に話した。

「ふふっ、良い考えねミーシャ。其れで 其のリボンは誰が作るの?」

「ええぇ!?、母さん 作ってくれないの?」

「そうね、そう言う事なら できればミーシャが作ったらどうかなって、母さん思うの」

不意の提案にミーシャは戸惑いを隠せなかったが しばらく考えていると それもワクワクするなって思えてきた。

「わかった!そうする! でも、母さん…」

エルフィナは ニッコリと笑うと ミーシャをキュウっと抱きしめ言った。

「もちろん作り方は教えてあげる。 でも作るのはミーシャ、あなたよ?」

「やったぁ!ありがとう母さん!」



遠い日に交わされた約束。

果たされる事のなかった約束。

だから 今も、青年は歩き続ける。

たとえ どんなに遠い道のりでも。

その一歩一歩が 愛するモノへと近付く為に続く道のりだと信じて。

あの日 交わした約束を いつの日か きっと果たす事が出来るとと信じて。

青年は 歩き続ける。

いつの日か 愛するモノを抱きしめられる日が来ると信じて。





其れでも運命の輪は 容赦なく死スベキ者どもを踏みしだき 轟々と回り続けると言うのに…。





【星屑】 その12    ……to be continued.









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