残念な時帰呼が綴る 残念な感じのON>OFF生活


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おはようございます。

不定期連載中の【星屑】第14話をお届けします。

読んでいただける方が 其れほどはいらっしゃらないでしょうが、なんとか完結させたいと思っています。

このお話しの結末は 彼女と一緒に考察していた時に思い付いたもの。

出来ることなら、彼女の元にも 届きますように。

愛を込めて……


では、以下から本文です。








【星屑】その14



通いなれた廻廊の角を 幾度も間違えながら 漸くレスボスの神殿群を抜け出すと、既に 東の空が白々と明けようとしていた。

胸が締め付けられ、焼け付くように苦しい。 その苦しみは 胸から四肢へと 紅蓮の焔が枯れた草原を焼き尽くすかのように広がってゆく。

膝は、初陣の時でさえ感じたことのないほどに ぶるぶると震え、 スコルピオスは 傍らの石柱に掴まらねばならぬほど 混乱し 疲弊していた。

「殿下!?」

主の遅い帰りを心配したゾォースマが 物陰から駆け寄り スコルピオスの身体を支えた。

「如何なさったのですか?」

だが、その問い掛けに すぐには答えられない。 どうにか よろよろと数歩 歩くと スコルピオスは臓腑の底から 絞り出すように言った。


「すぐに、……此処を離れる」

「もちろん、出港の支度は出来ております」

ゾォースマは、眉を寄せ 初めて見る主の様子に 困惑を隠せなかった。

「急ぐのだ!」

一刻も早く この地を……、ミーシャのもとから離れなければ……



*****



ひょうひょうと風が吹く。

夜の帳が レスボスを覆い尽くし 白亜の神殿群も 漆黒の闇に沈む。

島内に点在する 神殿とそれに附随する建物は、急坂を縫い取る糸の如き細い廻廊で複雑に繋がれ まるで一枚の刺繍画のようにも見えた。

その神殿群の最奥に位置する一際大きなアストレイア神殿の傍らに このレスボスを統べる巫女たちの長ソフィアの小さな居室がある。

本来なら 陽の沈んだ夜半、レスボスの巫女たちが守護する神域に 余人が立ち入ることは許されてはいない。
だが、この夜だけは 例外であった。

赤く燃える灯明を頬に受けてなお、所々 紫色の差し毛のある銀髪の若者の眼は 深い紫水晶の色に見える。

ソフィアは、何故 彼が此処に現れたのか すぐに察しがついた。 それは、星読みの力を使わなくとも 明確であったのだから。

「此処にはいない……と?」

ソフィアの答えを聞いた若者は 不安に瞳の色を揺らし 吐き出すように言った。

「ええ……、」

ああ、なんと言って伝えれば良いのだろう? 昨夜、この神域に吹き荒れた嵐の如き暴挙を思い起こしながら ソフィアは わなわなと怒りと恐怖にうち震えた。 それは、この神域の長となっての長い年月 ついぞ感じたことのない激しい感情だった。

「何処に? ミーシャは、妹は 何処にいるのです?」

若者は ソフィアに掴みかからんばかりに詰め寄る。 彼もまた、此処に来るまでに 蹂躙された神域を 嫌というほど目にしたのだろう。

「彼女は、昨夜 連れ去られました」

「誰にです?」

若者の眼の色が 紫から燃え盛る焔の色に変わってゆく、そう それは まるでミーシャの瞳の色のようだ。

「何者かは わかりません。 夜陰に乗じ 襲ってきた彼等は 海賊や暴漢の群れなどではなく 統率された軍のようでした。 その後 私のもとに寄せられて来る情報によれば どうやらラコニアの……」

「そんなことを聞いているのではないんだ! 俺の聞きたいのは ミーシャの行方だ!」

若者の眼の色が 更に濃いものになり それは漆黒の闇の色に近づいてゆく。

「西へ……、どうやら 彼等の船は 西へと向かったようです」

レスボスは 神域であると同時に 交通と貿易の要所である。 そしてまた同時に この地中海世界の全ての情勢と情報が集まる要所でもあった。
したがって この地を荒らしたものが 何の痕跡も残さずに立ち去ることなど不可能なのである、いずれ 昨夜の集団が何処の国の軍かは明らかになるだろう。
だがしかし、その時 はたして……。

「西へ、だな!?」

若者は踵を返すと 足早に立ち去ろうとする。

「お待ちなさい! 闇雲に追ったとて とても見つけることは出来ません! 今、彼女の行方を懸命に」

「それを、ただ座して待てと言うのか!?」

ああ、この眼は……、ミーシャの瞳の色に似ていたと思ったのは間違い。 それは 漆黒の闇の色よりもなお暗い 冥府の王の瞳と同じであろう深淵の紫に鈍く輝いていた。

そう、それは 死の神が持つ冥王の鎌が放つ断罪の刃の煌めき。

「わかりました。 船をお貸ししましょう。 そして、賊の行方は レスボスの力で 必ず!」

これが、どのような結末を迎えるのか……、それはわからない。 けれど 後悔だけはしたくない。 時は二度と取り戻せない。 だから今出来ることを……。 たとえ、其れが あの時のように間違った選択だとしても、今 出来ることをせずに 後悔することだけは したくない。

ソフィアは、意を決すると 控えの間の巫女に次々に命を与え 若者が すぐにミーシャの跡を追える手配をした。

「私に出来ることは 此処までです。 貴方に神の御加護を」

そう言いながら ソフィアは 心の中に沸き上がる予感を打ち消そうとしたが 其れは どれ程打ち消そうとしても困難なほど明確な感覚を帯びていた。 まるで 眼前で繰り広げられる光景を見るかのように。

この時ほど ソフィアは自身の【力】を呪ったことはなかった。


「アストレイアの加護を……」

繰り返した その言葉は 若者に向けたものなのか、或は 自身に向けたものなのかは 判然としなかった。



*****




まるで、何かから逃げるようだわ。

ミーシャは、無言で追いたてる兵士に即されながら 名も知らぬ島の洞窟の奥へと歩んでいた。 足元は 湧き出した地下水に濡れ 覚束なかったが、それでも毅然とした足取りは崩すまいと思った。

レスボスより拉致され 幾夜かの航海を連ね辿り着いたのは 地中海に浮かぶ無数の島々の一つ、人の住まぬ小さな島のようであったが 此処に至る道筋を見ると あちこちに崩れかけた石積の祠や整備されずに遺された石畳が草木に埋もれるように散見さ、かつて この島は なんらかの神を奉った神域の一つであることが推し測られた。

洞窟の突き当たりは 広々としたドーム状に開かれ 天上部が崩れ落ちたのか、青白い月明かりに 満たされていた。

広間の壁には 太古の昔 何者かが描いた壁画に埋め尽くされ、その中央には満々と水を湛えた地下湖がある。見ると月明かりのもと 湖上に突き出るように大きな岩が張り出し、其処に 一つの大きな人影が ミーシャを待っていた 。

「ようこそ……」

人影が 静かな声で 語りかけた。

青白き月光に照らされた その声の主の顔には見覚えがあった。

いや、あの人のはずがない……。

そう思いながらも、予感が既に告げていたのかも知れないとミーシャは感じた。

何故なら、彼女の心の中には 怖れも 驚きも 嫌悪も無かったのだから。


「貴方だったのですね?」

その言葉を聞いた 影の主は 哀しそうに微笑んだ。






【星屑】その14 ……… 了
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