残念な時帰呼が綴る 残念な感じのON>OFF生活


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【星屑】の続きです。


あと少し……








【星屑】その15


月明かりは 煌々と湖面を照らし、星明かりは 虚ろに瞬いた。

黒い岩肌に円く縁取られた天上の神々の住まいは かんかんと冴え渡っている。


寂しそうに微笑む彼の顔が 怪訝に歪んだ。

「私だと……、見えるのですか?」

「ええ、月明かりのもとでなら…… 」

スコルピオスは、ゆっくりと歩を進め ミーシャの数歩前まで近づき 立ち止まった。

「いつから?」

ミーシャの瞳に映る星々を背景にした自分の姿に嫌悪を覚えながらスコルピオスは問う。

「貴方と出会ってから……少しづつ」

そんなはずはない

スコルピオスは 思い起こした。
私とミーシャが出会ってから 一月も経っていない。 初めて彼女に会った時のことは鮮明に覚えている。

彼女の足元には 主を気遣う黒毛の犬、その犬の目を スコルピオスは思い出した。

まるで、人間を……、
いや、スコルピオス自身を哀れむように見つめる漆黒に近い紫の瞳。

今、自分が見つめるミーシャの瞳と同じ色の瞳だった。

光を失なった巫女の瞳の色は あの時、何色だったのだろうか?
スコルピオスは 懸命に思い出そうとしたが その記憶だけは スッパリと切り取られたように 彼の頭の中から消え失せていた。


「どうしたのです?」

まるで、此処に招いたのが彼女であるかのようにミーシャは落ちついた声で 彼に語りかける。

「実は……」

そう言いかけて スコルピオスは、ミーシャの傍らの兵士の存在に気づき、 無言で睨み付け 下がらせた。

「貴女に お願いが…… 」

「願い?」

小首を傾げ 悪戯っ子のように微笑むミーシャに魅せられ スコルピオスは言い澱む。

「そう、……願いを」

「一国の王子たる貴方が 一介の巫女に願いとは?」

その微笑みだ。
その微笑みが 私を不安にさせる。


「やはり 知っていたのですか?」

「ええ……」



絶望が スコルピオスの胸中に満ち、溢れ出そうになる。

けれど、彼は其れを押し止めて 口を開いた。


「願いというのは、他でもありません。 貴女の先読みの力を 神より賜れし力を 私に御貸しいただきたいのです」

「なんのために?」

小首を傾げて問うミーシャの笑顔は 少しも陰ることがない。

「理想郷建設の為です」

臆面もなく 尻の青い小僧ッ子のような台詞を よくも吐けるものだとスコルピオスは自身を嘲った。 だが他に どう言えば良い?

「理想郷……、

それが よもや実現可能だと……?」

スコルピオスは赤面しつつも言葉を継いだ。

「愚にもつかない絵空事ではないのです。 あと少し、あと少しの処まで……、必要なのは 神の御加護……、いえ けして 私は神頼みなどする心算はないのです。 愚かな庶民を導く為の方便……、あ いや、けして貴女の力を信じないわけではないのです」

自分自身でも 何を言っているのだろう?と呆れかえる物言いだ。

「私には そのような力などありはしません」

「まさか」

怪訝な顔のスコルピオスに ミーシャは 仄かな蒼白い月明かりのせいか 氷のような面で言った。

「私の何が お望みなのですか?」

ナニガ ノゾミ?

私は ただ、この醜く争い続ける世界を終焉させたいだけなのだ。
其れが 喩え 世界を破滅させようとも構わぬ……。 選ばれた民だけが 平穏に暮らせる国家を建設しようなどと幻想を抱く心算も無い。

所詮 この世は ヒトが作った偽りの世界。 世界は ヒトの手など借りずとも 美しく在るものの筈だ。

幼き日、一面の薔薇の園に立ち 見上げた青空。

其れを取り戻す為ならば 世界を破壊し蹂躙し尽くしたとしても構わぬ。 あらゆる国家を平らげ 我が手で世界を掌握し二度と汚されることのない あの楽園を 取り戻すのだ。

その為には 是が非でも


「是が非でも……?」

其処には ミーシャの見る者を凍りつかせる微笑みがあった。

「是が非でも、貴女の御力添えが必要なのです」

スコルピオスは 半ば 惚けたように言葉を継いだ。

「それは、私の【読み取る力】のこと? それともレスボスの巫女としての権威?」

意地悪そうにミーシャが言う。

「その両方……、と言ったら 欲張りでしょうか?」

「そうね、世界の王となろうとする貴方ならば それくらいの欲張りも赦されるでしょう。……けれど 」


「けれど……?」

スコルピオスの問いに ミーシャは答える。

「けれど、其れは叶わぬ望み。 今はもう……」

「私には力があります。 レスボスの全ての権力を奪い取り貴女に捧げる力があります。 貴女さえ 御力添えをくだされようと決心して頂ければ、この世の栄華の極みの全てを贈らせて……」

ミーシャが 瞳を伏せる。

「貴方の夢は そんな俗世の垢にまみれたモノなの?」

スコルピオスは、頬を赤く染めた。 其れこそが 自分の最も嫌悪するモノなのではなかったのか?

「貴方が望むモノは もう失われてしまったモノ。 ただの幻影。 それも、貴方自身が壊してしまった宝物……」

ミーシャの言葉に スコルピオスは凍り付いた。 誰にも話せずに心の内に隠し、自分自身でさえ忘れていた記憶が甦る。

咲き乱れる薔薇の園

母の作ってくれた壊れてしまった花の冠を手に あの日のスコルピオスは 青い空を見上げていた。

足元には 倒れ臥した女の亡骸

スコルピオスの両腕は薔薇の棘に切り裂かれ 幾筋もの傷から鮮血が流れ落ちていた。

(なに、こんなモノ 大したキズではなイ。 キズツクことを恐れていてハ、ナニゴトモ為し遂げラレハしない。 戦場に出陣する日がチカヅイテいるのダ)

青い空を 白い雲が流れてゆく

(それにしても、世界は なんと素晴らしく輝いてミエルのだろう……)


月光

青白き月光が 降り注いでいる。



*****



頬を打つ枝葉が 若者の日焼けした肌を切りつけ 幾筋もの傷をきざんだが 彼は気付きもしなかった。

足元は泥濘み 生い茂った樹木の狭間から漏れ落ちる月光は 心許なく行く先を照らしている。

息は切れ 肺臓はぎしぎしと音を立てて まともに機能してくれない。 だがそれでも彼は走るのを止めない。 自分が 何処へ行くべきなのか、行く先に何が待ち構えているのか分からないが 今は死力を尽くして走ることしか彼には出来なかったのだ。

彼には約束があった。
幼き日、愛する己れの半身に約束した 未だ叶えられぬ約束があった。

人に話せば 馬鹿にされるような約束。
だが其れは、ふたりにとっては たとえ不可能と見えても為し遂げねばならぬ夢だったのだ。

ああ、神よ 我を導きたまえ
我が身など 供物として望むなら 我が胸を切り裂いて捧げよう。

だから、だから、神よ

若者は 中天に蒼白く煌々と輝く月に向かい声無き慟哭を まるで銀髪の狼のように上げながら 走ることしか出来なかった。
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