残念な時帰呼が綴る 残念な感じのON>OFF生活


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いよいよ、大詰め……

あと少し……。









【星屑】その16


星明かりは やさしく瞬き 月明かりは仄かに降りそそぐ

冷たい夜の風がミーシャの頬を撫でた。

おかしなものね……。

目に見えないモノが見えた時には こんなに美しい夜を また見れるなんて思わなかった。

蒼白い月光は やさしく、
子供の頃の闇への不安は 今は少しも感じない。 そう、あの頃だって エレフの手さえ握っていれば 何も怖くなんてなかった。

私は 怖がりで泣き虫のエレフを いつもいつもからかっていたけれど 本当は自分自身も怖がりだった。

夜の闇、風の音、揺れる木の影、鳥の声

森の中は いつでも私を不安にさせた。
それでも、其処だけが 私達ふたりの世界、愛すべきふたりだけの世界だったんだ。

眼前に立ち尽くす男の顔は 月光を背に黒々と染まり その表情は知れない。

けれど、不思議なくらい静かな心が 私の胸の中に満ちている。

天に架かる丸いお月さま

あぁ、あの月に手が届くなんて 何故 思ったのだろう?

何故 とってあげるよなんて言ってくれたのだろう?


それは、エレフも私も 幼すぎて、世界が これ程 ヒトの手により汚されているなんて知らなかったから。

願えば 全てが叶う世界だと信じていたから……。


ソフィア先生は 星を読み、ヒトの行く末を指し示す。 けれど、こうも言った。

「私の見る未来は 確定されたものではないの。 数ある選択肢の内のひとつを啓示するだけ……。 ヒトの辿る運命の細糸を紡げるのは 運命の女神だけなの。 そして 其れを裁ち切るのは…… 」


「どうあっても……、ですか?」

月を背にした男の怒気を孕んだ声が 静かに夜の静寂に響いた。

この男は 何を言っているのだろう?

月は 無慈悲な程 美しく気高く中天に輝き、闇の中の闇を色濃くする。

(ヒトは、何故闇を恐れるのでしょうか?)

フィリスさんの声が聞こえたような気がした。 それは あの時の私には 答えられない問いだった。 けれど、今ならば わかるような気がする。

ヒトは 道標の無い暗い道を歩いている時でも 天には星と月があり 仄かに足元を照らしてくれるならば どんなに苦しい旅でも続けられる。

けれど、死とは 道標も地図も無い道を歩む行方の知れぬ旅路。 ヒトは 天も地もわからぬ闇の中にあっては不安に囚われ 一歩も進めずに踞るしかない。

ヒトが闇を恐れるのは 其処に 日常では目を背け その存在を忘れている【死】を見つけてしまうのではないかと恐れるのだ。

境界の向こう岸、死から生還したモノなど誰一人いない。


「どうあっても……」


月光は あくまでも冷たく蒼白く世界を照らす。 それは、この世に在るもの全てが 平板に、まるで絵に描いたモノのように現実感を失い 思考を停止させる。 世界は色を失い 運命の終点を まざまざと見せつける。


彼は 欲しているのだろう、既に その掌から零れ落ち砕け散ってしまった宝物の在りかを……。

其れが 如何に虚しい所業だと分かっていたとしても、止めるわけにはいかない。

何故なら、


ナゼなら


ナゼナラ



ヒトは 所詮 運命の女神の紡ぐ糸から逃れられない。 だからこそ【運命】なのだから。

男が 口を開く度に 冷えきった筈の空気の温度が下がってゆくように感じる。
ナニかが 此処に訪れようとしているのだ。

「貴女の力添え無しでは 人々は 我が理想国家……、いえ 敢えて言わせてもらう、理想郷建設に賛同し集うことはないでしょう。 どうか、どうか……」

「貴方の理想郷を この地上に実現する為に あと何れ程の人々を死に追いやる御積もりですか?」

ミーシャの言葉に スコルピオスは唇を噛む。 これ迄も多くの人命を踏み躙ってきた。 此れからも より多くの人命を蹂躙せずばなるまい。 だが、其れを ミーシャが赦す筈もなかったのだ。
そんなことは 初めから判っていたこと。

ならば何故、私は彼女に こんな願いを……

それもまた、知れたこと。


「どうあってもですか?」

ミーシャの顔を見て スコルピオスは悟った。 この女も 避けられぬ運命に抗おうともせずに 全てを受け入れると言うのか……?

母は 自分の運命を呪いながらも 全てを諦め受け入れた。 だが、其れが自分の精神を どれ程 蝕んでゆくのか知らなかったのだ。 もっと普通に生きたかった……と母は言った。 極普通の女の幸せを夢見ながら、結局は 自分自身の夢に喰われてしまったのだ。

夢とは なんと恐ろしいモノなのだろう?

(ソレハ、オマエモオナジコトダロウニ……)

ひんやりとうなじを冷たい吐息が撫でたような気がした。

「私は……」

スコルピオスは、この世で出逢った どんな宝物よりも輝いていたモノが 不意に憎々しく思えた。 運命をただ受け入れるということは 生きること 生き抜くことを諦めると同じではないか?
いや、ただ無為に己の命を投げ出すことではないのか? 伴に 他人の血肉を喰らい 修羅の道に堕ちようとも 己が本当に望むものを手に入れるために抗うモノだけが スコルピオスには愛しく思えるモノだと気づいた。

だがしかし、それでもなお……


「月が見れてよかった……」

ミーシャは スコルピオスに背を向け 洞窟の天井に開いた丸い夜空に浮かぶ月を見上げている。

「貴女の力を 他者の手に渡すわけにはいきません」

そう言いながらも スコルピオスは 其れが偽りの理由であると知っていた。
だが、どうすれば良い?

ミーシャの纏う白いキトンが月明かりに蒼白く染まっている。

スコルピオスは、すらりと分厚い剣を鞘から抜き放つと ゆっくりと上段に構えた。

「どうあっても、承知くだされないのですね」

ミーシャは、何も答えず ただ天空の月を見つめている。 その姿は 神殿に祀られる神像を思わせる美しさと頑なさを思わせる。

スコルピオスは 手にした剣を しかと握り直すと 信じてもいない異国の神の名を呼んだ。

「ヒュードラよ、受け取り賜え!」

それは、神に仕える者を殺める罪悪感から出た言葉ではない、だが 彼は それでも祈らずにはいられなかったのだ。

これで何度目だろう? 愛するものが 私から離れていってしまうのは。 だが、それでも 歩んでゆかねばならぬのだ。 かつて 母に ポリュデウケスに そして己自身に誓った約束の地を この地上に顕現させる為には、 たとえ 愛する者を この手に掛けようとも……。

月光に黒く光る大剣が 一閃され、ミーシャは 崩折れるように倒れると その衣を赤く染め上げ、地底湖に突き出した岩場の上から するりと落ちて行く。


(ごめんね、エレフ……)


いつまでも一緒にいようねって言ったのに

繋いだ手は 二度と離さないって言ったのに

ふたりで幸せに暮らせますようにって祈ったのに




(ごめんね)



そして、落下するミーシャの耳元で ナニモノかが甘く囁いた。それは、男のようでも 女のようでもある微かな声。 だがそれは、たしかにミーシャの耳元で そっと囁いたのだ。



(ヨウヤク、ワタシノモノニ……)




(あぁ……、この声は……)



その声は、レスボスの神殿の最奥で、数百年の間、数千人の巫女が どれ程 望もうと誰ひとり聞いたことが無いモノの声。

ミーシャが ただ一度 夜風に紛れて聞いたと思った あの声だった。


そして、もうひとつの声が重なる

(ヨウコソ、θガ 花嫁ヨ……)




月は無情な天空の神、


水面に落ちたミーシャの屍が伸ばした掌に その夜の満月が揺れていた。
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