残念な時帰呼が綴る 残念な感じのON>OFF生活


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ずいぶん以前に書いた ロマンのSSの再掲です。




【黄昏と宵闇の狭間】

「ようこそ!光と闇の狭間緋色に彩られし 黄昏の世界へ!おやおや、どうしました? ああなるほど!それは、残念でした ねぇ。お嬢さんのお目当ての御方は随分以 前に此処から立ち去って仕舞いました。い やいやそんな顔をするものじゃありませ ん。だってそうじゃありませんか?長い間 この闇の底に繋ぎ留めていた枷から彼は、 漸く解き放たれ、光り溢れる世界へと旅 立ったのですから… これは慶ぶ可き事なの ではないでしょうか?あああお待ちなさい お嬢さん折角このような処まで足を運んで 下さったのだから…、 どうだろう?愚かな 提案があるのだが、私で善ければ君の話し 相手になりたい!」

そう言ってその男は深々と頭を垂れると、 私を彼の背後に広がる闇の中へと手招い た。

******

先程まで夕日に照らし出され燃えるような 緋色に染まっていた薄雲は見る間に暗い赤 銅色に色を変え、深い紫色の闇のヴェール が辺りに漂い始めていた。

少女がひとり、そんな事に気付きもしない で人気の無い公園の真ん中に在る噴水の廻 りを、喪心しきった面持ちで、先程から幾 度も幾度も巡り歩いている。

春先とはいえ、冬の残滓が残る凍える夜が すぐそこに迫っていると言うのに彼女が羽 織っているのは擦り切れた薄いコートが一 枚だけ、そのたった一枚きりのコートの襟 を掻き合わせ 少女は「ほうぅっ…」と 息を吐いた。 吹き寄せる風は身を切るほ どに冷たく 襟もとの手の指は 皸(あか ぎれ)に腫れあがり 所々が切れ赤い血が 滲んでいたが 少女の眼は 此処に在らず といったように宙を泳いだ。

コツリッ…

石畳を叩く乾いた音に 少女が振り向く と、噴水を囲む冬枯れの花壇の前に据えら れたベンチに ステッキを手にした男が一 人座っていた。

男は 少女が自分に気付く事を待っていた かのように ボロボロの山高帽のつばの下 の唇を歪め(…ニヤリと笑ったのか?)ぼ そりと呟いた。 その声は ほんの小さな ものだったが 肌を刺す北風の中でも はっきりと聞き取れた。

「どうしたのかな? お嬢さん そんな浮 かない顔で… 何か悩み事があるようだ ね。 どうだろう 一つ提案があるのだ が、君が望むならば… 君の話し相手にな りたい…」

少女は まるで突然現れたかのような不審 な男に 一瞬警戒の眼を向けたが、良く考 えれば 深く心の内の世界に沈み込んでい た自分が気付かなかっただけなのだろうと 思い直した。 男は 物静かにベンチに腰 掛けたまま こちらを見ている。 その眼 差しは 迫り来る夕闇の藍色と 僅かに 残った夕陽の緋色を反射して まるで漆黒 の宝石のように見えた。

いったい何歳くらいの人なのだろう? 年 老いた老人のような佇まいにも拘らず そ のキラキラと輝く双眸は年若い青年のよう にも見える。

男は 今度は間違えようも無い暖かな笑み を浮かべて言った。

「これは、少しばかり おせっかいが過ぎ たようだね 失礼した。 私は退散すると しよう…」

「あっ…、ごめんなさい 私…」

立ち去りかけた男が振り返り 小首を傾げ 次の言葉を待つ…

「少し… 話を聞いて頂けますか…」

少女の言葉に 再度ベンチに腰を下ろした 男は 大きく空けた自分の隣をポンポンと 軽く叩いて砂埃を払い 座るように即し た。

「失礼、レディーファーストとかは 慣れ てないんだ…」

それでも、そんな風に 丁重に女性として 扱われた事の無い少女は頬を赤らめ なん だかフワフワした気分になって 男の隣に そっと座った。

「…とはいえ、あまり聞き上手な方では無 くてね」

そう言った男が ステッキに両手を置いて あどけないと言ってもよいほど邪気のな い笑顔で自分を見つめている。 話を聞く と言っておいて 其れは無いんじゃないの かな?っと思ってクスリと笑うと 男もク スリと笑って言った。

「やっと 笑ってくれたね」

ああ、この人の笑顔… 素敵だわ。 少女 は ぽつりぽつりと自分の身の上を この 初めて会った男に語り出した自分でも不思 議に思いながらも、一度口を開いた事で 今まで溜め込んでいた思いが次々と溢れ出 てくる。 其れは 生まれて来たことへの 疑問。 なぜこれほどに辛く苦しく孤独な のか…。 還らぬ人への想い。 そして埋 まれ来る仔への畏れ。 まだ見ぬ未来への 不安。

「成るほど…[En Effet(アン エフェ)]―― 、 逝く べきか 逝かざるべきか 其れが 君の 謂わば問題なのだね…」

こくりと頷きながら 少女は 話してし まった事に 少し後悔しだしていた。 何 故なら 男の笑顔は 先程と少しも変わら なかったが 漆黒の宝石に見えた男の瞳が 妖しく光りを変え ゆらゆらと揺れてい たから。

「君が望むなら 其れもよいだろう… け れど 生まれる前に死んでゆく焔が君の中 に宿っているのが 私には見える。 其れ は 儚く弱々しい焔だが 確かに自分自身 の意思で燃えているんだ…」

そんな事は 分かっている。 今 この瞬 間でも このお腹の中の命が懸命に手足を 動かし、精一杯自分の存在を主張している のを感じられるのだから。 けれど、こん なに辛い現実の中に産み落とされて この 仔は 本当に幸せなのだろうか?

「確かに この世は 苛酷な物語で埋め尽 くされている。 だが、其れは 君が決め る事ではないよ」

心の内を 見透かしたように 男は語る。

「そうだな、どうだろう? 私にひとつ提 案があるのだが…。 今から 私が見て来 た幾つかの物語を君に聞かせよう。 君が 君自身の本当に望む答えを導き出せるよう に」

辺りはすっかりと夜の帳に閉ざされ、空気 が凍りつくように冷え切っていたが そん な事は 少女には もう少しも苦にならな くなっていた。 噴水の音と風の音、語り かける男の声。 人影の絶えた 町はずれ の公園のベンチ。 澄みきった空に瞬く無 数の星明かりと真ん丸の月明り。

「さぁ、聞いておくれ お嬢さん [Mademoiselle(マドモワゼル)]… これは ハジ マリも無く オワリも無い 廻り廻る輪廻 の物語、儚く愛しい焔達の物語[ROMAN(ロ マン)]を……」

その時 少女は 気付いた。 夜空を見上 げる 公園の所々に灯ったガス灯の光に照 らし出された 初めは 老紳士かとも思え た男の顔は いつの間にか瑞々しい少年の ように変わり、右の瞳は藍色 左の瞳は緋 色に輝く宝石のようにキラキラと輝いてい ることに…。

――これもまた [Un enfant de l'hiver(冬の仔)]が生れるに至る もうひと つの浪漫――

【黄昏と宵闇の狭間】 …… 了
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